知っておきたい熊の知識と対策
近年も熊を人が襲うニュースや熊が街中に出没するニュースが絶えません。しかし一体、熊に対してどのような行動をとれば良いわからないですよね。
登山者にとって熊は他人事ではありません。登山予定の山域では熊出没の情報を聞けば、熊鈴を持っていくなどして行かれる方がいると思います。それは非常に危険な行為です。仮に熊に襲われると人間だけでなく、熊も駆除対象となってお互いに不幸な運命をたどります。自分は襲われないとは思わず、熊の生態を勉強して熊との遭遇する確率を下げていきましょう。また、遭遇してしまったときに取るべき行動も説明していきます。この記事を読むことで熊への対策を覚えることができます。
熊対策においては、熊に合わないようにすることが第一です。
そこで今回は「熊」について詳しく説明していきます。
日本に生息している熊の種類
日本にはヒグマとツキノワグマが生息しています。ヒグマは北海道のみに生息しており、ツキノワグマは本州と四国に生息しています。現在、九州ではツキノワグマの生息は確認されておらず、絶滅したと考えられています。
ヒグマは体長2メートル以上で体重は150kgから250Kgと大型の熊です。気性は荒く人や家畜を襲う事があり非常に危険性が高いです。過去の害獣被害の多くはヒグマでの事件となります。最近では札幌の市内に現れることも増えており、その危険性が問題視されています。
ツキノワグマは体長1メートル~1.5メートルで体重は80Kg~120Kg程度でヒグマと比べると小型です。性格は臆病と呼ばれておりせ、積極的に人を襲う事はあまりないと言われています。ただし、山菜取りなどの際に人を襲った事例数多くあります。

熊の生態
熊は基本的に単独で生活しています。季節に応じた食物を探しまわります。晩秋には冬眠をするためにさらに広範囲に食物を探し回り、冬眠場所を決めます。ただし、冬眠しない個体もいますので、冬だから大丈夫と思い込むのは危険です。
熊の行動について
行動時間についてですが、ツキノワグマの成獣に活動量センサーを装着して活動量を測定した調査によると、朝と夕方に活動量が増えている結果になっております。朝でいうと6時頃にピークとして活発に活動を行い、昼間もそれなりに動き、17時頃に再度、活動量のピークを迎えます。夜間では、1時~4時までが動きがみられない為、寝ていることが多いとの結果でした。この結果からわかることは、日の入りと日の出前後の薄暗がりの時間帯で活発に動き出すことです。登山開始の時間が特に注意が必要です。
ツキノワグマの行動範囲になりますが、GPSを付けた調査によるとオスで40Km~100Kmでメスで20Km~50Kmでした。ヒグマは数百Kmと言われ縄張りが広いと言われています。
熊の危険性
熊は鋭い爪と大きな牙をもっています。ひとたび出会って引っかかれたり、押し倒されたりすると大けがを負う事になります。身体能力は人間より抜群に高く、走ると最高時速50kmにもなり、走って逃げるのは不可能です。また、木登りや泳ぎも得意ですので、気の上に逃げるのは、逃げ場がなくなるため、絶対にしてはいけません。嗅覚は犬より鋭く、動物の中では記憶能力も良く、一度自分の物となったものへの執着心がすごい為、人間が取り返そうとしたら反撃されます。仮に取り返しても、その後にまた取り戻そうと襲ってきます。

熊害として過去に起きた代表的な事件を紹介させて頂きます。
三毛別ヒグマ事件
三毛別羆事件(さんけべつひぐまじけん)は、1915年(大正4年)12月9日から12月14日にかけて、北海道苫前郡前村三毛別(現:苫前町三渓)六線沢で発生した熊害になります。襲った熊はヒグマです。被害者は7名死亡・3名重傷となっております。巨大なヒグマが、一軒の民家に押し入り被害がでました。。その後ヒグマ退治に乗り出すが、冬眠しそこねた凶暴化したヒグマは、知恵を働かせて、村人たちを次々と牙にかけていった事件です。日本史上最悪の熊害と言われています。
森林伐採と明治以降の内陸部開拓で、野生動物と人間の活動範囲が重なった結果が引き起こした事件とも言及されております。事件を後世に残すための『三毛別羆事件復元現地』が作られ、当時の再現がされています。また、下記の書籍では、生存者たちへの貴重な証言をもとに描き出す戦慄のノンフィクションとなっております。
この事件で、火を恐れない・執着心が強い・逃げるものを追う・死んだふりは無意味との教訓を教えてくれています。

福岡大学ワンダーフォーゲル部ヒグマ事件は、1970年(昭和45年)7月に北海道静内郡静内町(現・日高郡新ひだか町静内高見)の日高山脈カムイエクウチカウシ山で発生した獣害事件になります。襲った熊はヒグマです。被害者は3名となっております。
福岡大学のワンダーフォーゲル部の部員5名は、日高山脈を縦走する目的で、7月14日に入山しています。25日にヒグマが現れ、部員の荷物を漁り、テントに穴をあけるなどの被害がありました。26日の早朝、ふたたびヒグマが現れテントを倒しました。そのため、2名は下山を開始したが、同じく登山をしていた北海学園大学や鳥取大学などのグループに会ったので救助要請の伝言し、2名は仲間の元に戻りました。その後、ヒグマが再度現れた為、彼らは鳥取大学のテントへ避難するため、九ノ沢カールを出発のですが、鳥取大学や北海学園大学のグループはヒグマ出没の一報を受け、すでに避難したあとだったため、仕方なく彼らは夜道を歩き続けました。ヒグマは彼らに追いついて、1名を襲い死亡。また、1名とははぐれてしまいます。27日早朝、下山する途中でヒグマはまた現れた。また1名が襲われて死亡。2名は無事下山し、駐在所に救助要請をします。はぐれた1名を救助する為に救助隊が結成されて捜索しましたが、はぐれた1名も熊に襲われており死亡していたとのことです。
この事件で、あさった荷物を取り返してはいけない・遭遇したらすぐに下山しなければいけない・背を向けて逃げてはいけない・時間や天候に関係なく行動する・事前に出会ったときの対処法をチェックしておかなければならないとの教訓を教えてくれています。

ヤマケイ文庫 人を襲うクマ―遭遇事例とその生態
十和利山熊襲撃事件
十和利山熊襲撃事件は、2016年 5月から6月にかけて、秋田県鹿角市十和田大湯(とわだおおゆ)の十和利山山麓で発生した熊害になります。襲った熊はツキノワグマです。被害者は4名死亡・4名負傷と痛ましい事件となっております。初めて熊に襲われる事件後もタケノコ採りの目的で分け入る者が絶えないため、被害が拡大した事件です。
次々に人間を襲った熊は「スーパーK」と呼ばれ、同年9月に捕獲檻に入っているところを発見され、射殺されてしまいました。第3の犠牲者を襲ったのはスーパーKの母熊ではないかと推測されています。この事件では熊がタケノコ食を好むことや熊は食べ物がある限りその場所に居続けて食べること・熊のエサがあるところには群がることを教えてくれています。下記が関連書籍の「人狩り熊」です。
熊の目撃情報がある際やタケノコや山菜採取の際は注意しましょう。

人狩り熊 十和利山熊襲撃事件
危険な季節とは?
基本、熊は単独で行動し、季節に応じて食物を探して秋の終わりには冬眠場所を決める為に動き回ります。ざっくりとした1年のサイクルが下記になります。ただし、下記の状況は地域や標高で違います。あくまでも目安としてください。
危険な季節になりますが、この表を見てもわかるように、冬眠あけと冬眠前は熊が活発に動き回りますので、危険な季節と言えます。このタイミングでの登山には細心の注意が必要です。
春 | 5月〜6月 | 交尾期 | 冬眠あけはエサを探して動き回る ♂は♀探しで盛んに動き回る |
夏 | 7月始〜8月終 | 活動期 | 食べ物が野山に少ない時期 |
秋 | 9月〜11月中旬 | 活動期(食いだめ) | 冬眠に備えてエサを求めて動き また、冬眠場所を探して動き回ります |
冬 | 12月〜4月 | 冬眠 | ♀は冬眠中に出産する 冬眠しない個体もいます。 |
熊に出会わないための対策
音を出して存在を知らせる
これは、よく言われる対策です。山に入るときは一人では入らず、複数人で話ながら歩くことが有効です。また、熊鈴やラジオなどの音が出るものを持参して、人の存在を知らせることで出会いを防ぐことができると言われています。

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早朝と夕暮れには注意する
朝や夕暮れ自の薄暗がりの時間帯が最も活動量が増えているのが、行動調査から判明しています。この時間帯を避けることも重要です。ただし、登山であれば早朝に出発する事も多いと思いますので、この時間は熊の活動量が多い認識を持ち、慎重に行動する事を心がけましょう。

一人で行動しない
大人二人以上で行動しているグループとソロ登山では、ソロ登山者が襲われる件数が多いです。急にばったりと熊と合ってしまった場合は同じですが、熊は臆病な生き物であり慎重な生き物なので、熊の方から気づいていてもこちらを観察していることがあります。一説には一人で登山している方が倒しやすいと判断して攻撃してくるとのことです。可能な限りグループ登山を心がけましょう。
また、一人で登山する際は、事前に行きたい山域の熊出現の最新情報をインターネットで調べましょう。1か月以内に情報がある場合は、延期する事をおすすめします。もちろん、グループ登山だから安心ではないので、気をつけてください。

茂みにはいらない
基本的には、できるだけ見通しが良いところを歩くようにしましょう。茂みをかき分け歩いているとお互いに気づかないで、出会い頭に遭遇する危険性が増えてしまいます。 山菜採りやキノコ採りでは、夢中になったり茂みに入ることで襲われてしまう事故が発生していますので、注意しましょう。
また、藪漕ぎ気味な登山道も存在しますので、その際は細心の注意をしましょう。

香水や整髪料を付けていかない
香りの強いものに引き寄せられることが知られています。嗅覚が犬の7倍~8倍あると言われている熊は、遠くにある香りに興味を惹かれて寄ってきてしまう事があります。
香水や整髪料、また、香りの強い化粧品やシャンプーにも注意が必要です。
食料の管理をしっかりする
熊に食料を狙われてしまう危険を回避する事も重要です。
2020年8月に上高地の小梨平キャンプ場でテント泊をしている際、真夜中にクマに襲われた事故が起きています。幸いにも熊の存在に気付いて、逃げ出したことで九死に一生を得ました。しかしながら、ザックの中にあったレトルトカレーなどの食材は食べられてしまっていました。1度でも人の食べ物の味を覚えてしまったクマは、再び食料を得ようとそのエリアに出没するようになる。クマが餌付いたことが今回の事故の原因と言われています。
そのため、登山をする際は残飯やゴミを適切に管理しないと、熊を引き寄せてしまいますので適正な処理(ガベッジバックなどで密閉)をして家まで持って帰って捨てることが重要です。
また、食材やザックを熊に取られてしまった場合は、あきらめましょう。熊は執着心がすごい為、取り戻そうとしたら攻撃されてしまいます。

熊に出会ってしまったら
熊を見かけたら(こちらに気付いていない)
落ち着いてその場からゆっくり離れましょう。熊が下山ルート側ではない際は、そのまま下山しましょう。
熊を驚かすと危険ですので、大声を出したり、急に走って逃げるのはやめましょう。また、写真を撮るのに、フラッシュもNGです。
近くで熊を見かけたら(こちらに気付いている)
熊から目を離さずにゆっくりと静かに後退します。本能で追いかけてきますので、絶対にを向けて逃げてはいけません。また、突進してくる可能性を考慮して熊との間に木などの障害物が来るように逃げましょう。近づいてくるようだったら、ゆっくり両腕をあげて振り、穏やかに話しかけましょう。
熊スプレーを持参している場合は、ホルスターから抜いていつでも対応できる準備をしておくことも重要です。
熊が向かってきたら
熊スプレーを持参している場合は、ロックを外していつでも噴射できるようにします。可能な限り風上側へゆっくりと移動し、射程圏内に入ったら、目や鼻をめがけて噴射します。熊スプレーを使用する際は風上で使用するようにしましょう。風下だと自分も熊スプレーを浴びてしまい、自分が大きなダメージを受けてしまいます。
もうダメと思ったら、防御姿勢と呼ばれる態勢を取りましょう。防御姿勢とは、おなかを地面に向けてうずくまり、足を大の字に広げて手は首のうしろにして首を守る姿勢のことです。転がされてもその勢いで元の姿勢に戻ることが重要です。あとは運に身を任せ、熊が飽きるのを待つしかありません。熊が立ち去ったら避難します。
熊対策グッズ
熊よけ鈴
一般的に熊は、人の存在に気付くと人を避ける行動を取ることが多いです。そのため鈴を鳴らすことで、人間の存在を熊に知らせてばったりと出遭うのを防ぐことができると言われています。ただし音を聞いても逃げない個体もいます。残飯の放置や餌付けなどで、人の食べ物はおいしいと学習してしまった熊は、逆に音を聞いて近寄ってくることがあります。ですので、熊よけ鈴があるからと過信してはいけません。ですが、何も対策しないよりは良い事が多いため、携帯することをおすすめします。
自分が熊よけ鈴を選ぶ際のポイントは消音機能があることと音が大きいことです。
おすすめ熊よけ鈴 3選
東京ベル 森の鈴(BEAR BELL) 消音機能付 TB-K1
本体を引けばワンタッチで切替可能な消音機能付き。音が気になる公共の場で便利です。
サイズ:ワン直径35mm / 全長70mm(カラビナ含まず) ・参考重量:65g

モンベル トレッキングベル サイレント
人の存在を知らせるためのカラビナ付きベルです。状況に応じて音が鳴らないようにすることができるので、バックパックなどに取り付けたままでも、気兼ねなくバスや電車などを利用することができます。
CHUMS(チャムス) ベアベル CH61-103
かわいいCHUMSの熊よけ鈴です。ストラップに内臓した磁石をくっつけると鈴音を小さく抑えられる便利な機能付き。バックパックやベルトループに取り付けて使えます。CHUMSらしく可愛くてカラフルな鈴で所有欲を満たしてくれます。
サイズ:高さ 12 ×幅 2.5cm

熊スプレー
本格的な登山をやるときに購入を悩むのが、熊スプレーだと思います。熊と遭遇する事はまれなことではありますが、熊に出会ってから後悔するのでは遅いです。値段は高いですが命には代えられません。銃を携帯できない登山者で唯一熊に攻撃できる武器となります。いざという時の保険と思って購入をおすすめします。
おすすめの熊スプレー3選
熊撃退スプレー (ラングスジャパン)
唐辛子成分(カプサイシン2.0%含有)のスプレーで、約7~8メートルの飛距離で身を守ります。最長噴射距離は約10.5mと最長クラスです。噴射時間は熊や環境に後遺症などは残らないように作られています。
●サイズ : 約215mm×Φ50
●重量 : 本体/約300g、ホルスター/約100g
●内容物 : トウガラシエキス 代替フロン(HFC-134a)
●噴射距離 : 約7〜8m
●噴射時間 : 約5〜7秒

mace(メース) ペッパーベアーメース
世界トップシェアのmaceで熊撃退用に開発された護身スプレーになります。屋外でも風に左右される事なく目標に向かって幅広いエリアに瞬間噴射、約10mの飛距離を誇ります。
●サイズ : 約230xφ60
●重量 : 本体/約350g
●内容物 : カプサイシン1.6%、ジヒドロカプサイシン1.5%
●噴射距離 : 約8~10m
●噴射時間 : 約4~5秒

カウンターアソールト・ストロンガー
カウンターアソールト・ストロンガー(CA290)はカプサイシン(唐辛子エキス)を成分として利用した、超強力な熊撃退スプレーです。業界屈指の性能を誇っているので、威力を重視する方に適しています。
●サイズ : 約213×φ59
●重量 : 本体/約380g
●内容物 : カプサイシン(トウガラシエキス)、HFC-134a
●噴射距離 : 約10m
●噴射時間 : 約9秒

まとめ
いかがでしたでしょうか?
これまで説明させていただいたように、熊の生態を理解しないと非常に危険です。熊の対策としては、生態を理解して熊のおうちである山歩きをさせて頂くという気持ちが重要です。熊に合ってしまう事はまれですが、必ず対策を実施して山歩きを楽しみましょう。個人的には熊スプレーは必ず携帯することをおすすめします。ぜひ山での非日常を味わってください。あなたの安全登山を応援します!やってみよう!